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消失を彷徨う空中庭園

消失を彷徨う空中庭園

第九章 音波

 花がぞろぞろとサラたちの方に向かって来る。そして、激しく震えると耳障りな高い音を発した。しかし、サラは自ら花の方へ向かって歩いていた。サラには何も聞こえなかった。サラは乱暴に花を掴むと、ケースに押し込めた。すると、残りの花は震えるのをやめ、どこかへ消えていった。
 残されたケースの中の花が不気味にうごめいていた。
 サラは、後ろで転がっている洞島のことを思い出した。倒れたまま少しも動かない。近づくと肩で息をして悶えていた。まだ生きていた。顔に触れると、汗ばんで暑かった。
「サラ、何が起きた?」
「意外と元気そうね」
 洞島はそれには答えず、起きあがろうとした。しかし、挙動がおぼつかない。
「何がどうなったかわからない」
「それより、平気なの? 痛いところはない?」
 洞島はさっきから顔を歪めていた。体調が慮られる。目を開ければ、焦点が定まっていないようにも見えた。そして、ずっと頭の当たりに手をやっていた。
「ちょっと。聞こえてる?」
 それとも意識が混濁しているのか。こんな山奥で治療の術はない。動けないとしても、長くここに留まることは危険だった。生きて帰るためには、自力で下山できなければならない。
「ねえ。薬ならあるの。本当は一人分しかないんだけど、あなたにあげてもいいわ」
「ああ。頼む」
「聞こえてたのね」
「いや、今まで分厚い耳栓をしていたから」
「なるほどね。それが音のダメージを抑えたのね。奴らの凶器の一つは高周波だから。待って。今、神経の働きを正常にする薬を飲ませるから」
 サラはポケットからカプセルを取り出し、水筒の水で洞島に飲ませた。
「ありがとう」
「ちょっと強い薬だけど、すぐに効き目が出るから。悪いけど自分で歩いて頂戴ね」
「ああ。大丈夫だ」
 サラはひとまず安堵した。二度も危険な未知の植物の採取を成功させたのだ。これで、必要な材料は揃ったはずだ。田島教授ならきっとすぐに真実を見つけるだろう。長い戦いも、やっと終わりが見えそうだった。


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